西銘砿の䌫車と砿山軌道

Taiyuan / China

撮影2017/6, 制作: 2019/9, 改訂: 2023/9

山西省の省都、太原(たいげん)を再訪しました。今回のお目当ては、西山煤電西銘砿が運営する䌫車(らんしゃ, ケーブルカー)です。中国にはロープウェイは多数ありますが、ケーブルカーはわずか数例しかなく、希有な存在です。併せて西銘砿の砿山軌道を訪問しました。

Ximing kuang Xiepo, Taiyuan, Shanxi, 山西省太原市, 西銘砿斜坡, 2017/6/1

太原の中心から西へ16kmの山中に、西山煤電西銘砿があります。西銘砿へは太原駅から迎沢大街を走る市バスの[1]路に乗り、下元のバスターミナルで[16]路に乗り換えます。終点の斜坡に着くと、目の前に䌫車(ケーブルカー)乗り場があります。

		太原火車站から下元まで乗車した市バスの[1]路です。中通客車製の連接バスが使われています。フロントに吸気口のあるキャブオーバーエンジンタイプです。 運賃は1元、カードなら0.5元です。このカードを買うのに身分証明書の提示を求められましたので、パスポートを使いました。 青年路口にて撮影
		Xiepo 斜坡にある䌫車乗り場です。西銘砿䌫車房と書かれています。「房」という文字から、手作りの仕事場という雰囲気がしてきます。 2017/6/1 ※「斜坡」は地名ですが、元は斜面やスロープという意味の普通名詞です。 ※※「䌫」(らん)は、ともづな。舟を岸に繋ぐ綱を意味する言葉で、日中共通の文字です。
		外から見ると入口と出口が別々でしたが、駅舎の内部に仕切りはありません。がらんとした構内の奥に改札口、その先にホームがあります。 炭鉱の従業員や家族、及び関連する来訪者のためのケーブルカーで、料金は無料(免費)です。改札口はそのまま素通りします。
		山の上からケーブルカーが降りて来ました。この駅はガラス張りで、とても中国に居るとは思えない垢抜けしたデザインです。 冒頭の写真をもう一度ご覧下さい。まるで、巨匠モネが描く「サン・ラザール駅」の世界です。

乗客が下車して、急な階段を下りて行くところです。 西銘砿䌫車は1986年の開業で、高低差120m、全長約500mです。尚、山麓と山上の両駅には、特別な名前は付いてないように見受けられました。

		こちらは次の発車を待っているところを、上から見ています。 車両は常州神海工砿車輛製XLB50-10/6型、定員50人です。 銘板には「抱軌䌫車」と書かれていました。軌道の上を走るケーブルカーの特徴を、的確に表現しています。さすが漢字の国です。
		車内の様子です。最前列にある2座の椅子席を除いて、階段状の窓際に全員が立っています。つかまり棒で仕切られていて、中央が通路、両脇が部屋のようなイメージになっています。
		経路の途中に交換設備があり、車両がすれ違います。ごく一般的なつるべ式ケーブルカーです。 それにしても車両を牽引しているケーブルの結び目が、不安でなりませんでした。
		Poshang Jie 約7分で坡上街にある山上側の駅に到着しました。駅舎は山麓側に比べて、簡素な造りでした。
		←山上側の駅から太原の市街を眺めています。 ケーブルカー(䌫車)とロープウェイ(索道)は、しばしば混同して使われることがあります。インターネットでケーブルカーを検索しても、ヒットするのは大部分がロープウェイなので注意が必要です。ケーブルカーを名乗る会社が、実はロープウェイしか保有してないという例もあります。鋼鉄製の綱を使っているのは事実なので、それをケーブルと呼ぶかロープと称するか、混同するのも無理はないと思います。しかし、用語は正しく使いたいものです。 ケーブルカー：斜面に敷設されたレール(軌道)の上にある車両を、鋼鉄製のケーブルで牽引するもの。鉄道らしい外観をしています。サンフランシスコのケーブルカーもこの一種です。レールのないゴムタイヤ方式もありますが、要するに地上を走る乗物です。 ロープウェイ： 空中に渡した架空線にゴンドラを釣り下げて、ケーブルで牽引するもの。スキー場のリフトもこの一種です。 中国の旅客用䌫車としては、ここ西銘砿の他に香港のビクトリアピーク、重慶の朝天門、安徽省黄山の西海大峡谷など数えるほどしかありません。

Ximing Meikuang 崖の上に広がる西銘砿の社宅群です。西銘砿は1956年に創業した大手の炭鉱で、年間出炭量360万トンを誇ります。ケーブルカーの山上駅から炎天下をひたすら歩いて、画面のはるか右奥にある砿山軌道を目指しました。実は1元で乗れる乗合タクシーが走っていることをあとで知り、帰り道には利用することができました。

		Industrial Square Yard 工業広場にある砿山軌道のヤードです。さまざまな資材を積んだ貨車や長い編成の人車などが、広い構内に待機しています。 3kmほどの山道を歩いてきて、木曽森林鉄道の大鹿ヤードを彷彿させるような光景が突然眼前に現れたのには圧倒されました。因みに軌間は600mmです。
		8トンクラスのバッテリーカー、製造したのは上海申伝電気会社です。両端にキャブがあり、中央に大きな蓄電池ユニットが載っています。
		従業員を運ぶ人車です。どういう訳か左の31号は、スローガンが右から書かれています。「改善運輸環境」、漢字が読める日本人には極めて分かりやすい表現です。
		こちらはちょっと長尺の貨物を運ぶ有蓋車です。奥に炭車が見えます。 スローガンの「抓」(zhua)はつかむの意、転じてしっかり取り組むことを表します。「質量」は品質のことです。
		人車の屋根に乗って、職員が架線の修理をしています。手軽な作業風景に驚きましたが、黄河鐵路網様のホームページによると、電圧は比較的低圧で250Vとのことです。手前にL型の電気機関車がいます。

L型電気機関車を拡大して見ました。進行方向に合わせてシーソーのように転換する、独特の形をした1組のパンタグラフが付いています。

Entrance of Mine 工業広場のヤードの奥に坑口があります。巨大な銀傘で覆われている場所が用意されていて、最終的な貨物の確認や人車への乗り降りに使われているようです。ナトリウムランプと思われるオレンジ色の照明が印象的でした。※残念ながらこの先へは進むことは出来ませんでした。
		ヤードから何本もの支線が枝別れしていて、それぞれの作業区に通じています。ここは金網とコンクリートブロックの資材置き場です。
		道路に沿って資材運搬用の支線が伸びています。沿線には炭鉱を支える種々の資材を扱う工場が並んでいます。各工場の入口には出入用のポイントがあります。
		坑道の支柱などに使うパイプを貨車に積み込んでいるところです。パイプの運搬専用に造られた貨車は、下回りが炭車に似ています。
		ここはヤードから数百メートル西へ行った地点の工場です。この構内へも支線が伸びていました。残念なことに 時間帯が悪く、機関車による輸送を見ることが出来ませんでした。
		←支線の一つ、ズリ捨て場の風景です。 2018/7/31、山上の道路整備が完了し、斜坡から工業広場に直通する市バス[330]路が開通しました。 これにより、西銘砿が運営する䌫車は、32年の歴史に幕を閉じました。

山西省太原市については、以下のページをご参照下さい。 　中国トロリー紀行「太原のトロリーバス」 　中国トロリー紀行「西山煤電の通勤トロリーバス」